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損益分岐点は「月商の目標」ではなく「固定費を回収できる最低限の売上」です。売上高だけで終わらせず、客単価・席数・回転数に置き換えて、現場で毎日確認できる数字に直すところまでが損益分岐点の計算です。本記事では、固定費と変動費の分け方、計算例、複数シナリオで比べる判断表、そして損益分岐点には含まれない返済・税金・生活費との関係までを、仮定を明示したうえで示します。
損益分岐点は「利益ゼロの売上」であることを確認する
損益分岐点とは、売上高と総費用が一致し、利益(通常は営業利益)がゼロになる売上規模を指します。中小企業向けの経営相談窓口が示す基本的な考え方では、費用を売上に比例して増減する「変動費」と、売上に関係なく一定額が発生する「固定費」に分けたうえで、売上高が増えるごとに増える利益(限界利益)が固定費の総額と等しくなる点を損益分岐点とします。実際の売上高が損益分岐点を上回れば利益が生まれ、下回れば損失になります。
固定費と変動費をどう分けるか(飲食店特有の判断)
変動費には、売上に比例する食材原価、包材費、決済手数料などが入ります。固定費には、家賃、正社員の給与、リース料、通信費などが入ります。ただし、費用の分類は契約形態や店舗の運用によって変わります。パート・アルバイトの人件費は、シフトの入り方次第で「売上の増減に応じて調整できる部分」と「最低限確保しなければならない人員の部分」が混在することが多く、実務上はどちらかに明確に分けきれない場合があります。経営相談窓口の解説でも、実際の企業では費用を変動費と固定費に明確に分類することは難しく、実状に合わせて簡便的に分類したうえで計算に使うとされています。本記事の計算例でも、パート人件費のうち売上に連動させたい部分を変動費率に含め、最低限のシフト人件費を固定費に含める、という仮定を置いて計算します。
基本式と計算例:固定費120万円のケースを客数・回転数に直す
基本式は「損益分岐点売上高=固定費 ÷(1 − 変動費率)」です。以下の数値はすべて仮定であり、実在の料金や統計ではありません。消費税の扱いは、計算を単純にするため売上・原価・固定費をすべて税込で統一したと仮定しています。実際の帳簿では、課税事業者かどうか、簡易課税か原則課税かによって扱いが変わるため、税理士に確認してください。
| 項目 | 仮定・計算 |
|---|---|
| 固定費(月) | 120万円(家賃・最低限のシフト人件費・リース料・固定的な水道光熱費の合計、税込統一の仮定) |
| 変動費率 | 35%(食材原価率30%+決済手数料等とシフト連動分の人件費を合わせて仮定) |
| 限界利益率 | 65%(1 − 35%) |
| 損益分岐点売上高 | 約184.6万円/月(120万円 ÷ 0.65) |
| 客単価 | 1,200円(税込統一の仮定) |
| 営業日数 | 26日/月 |
| 必要客数 | 約59.2人、営業上の最低人数は60人/日(184.6万円 ÷ 1,200円 ÷ 26日) |
| 必要回転数(20席の場合) | 約3.0回転/日(60人 ÷ 20席。実際は時間帯で偏るため営業時間別に配分して確認する) |
家賃・客単価を変えた複数シナリオで比べる判断表
同じ変動費率のまま、固定費や客単価だけを動かすと、必要な客数がどう変わるかを比較できます。以下はすべて上記と同じ変動費率35%、営業日数26日、20席という仮定を維持したシナリオ試算です。
| シナリオ | 固定費 | 客単価 | 損益分岐点売上高 | 必要客数/日 |
|---|---|---|---|---|
| 基準 | 120万円 | 1,200円 | 約184.6万円 | 60人 |
| 家賃が高い候補物件 | 150万円 | 1,200円 | 約230.8万円 | 約74人 |
| 客単価を200円上げる | 120万円 | 1,400円 | 約184.6万円 | 約51人 |
家賃の高い候補物件を選ぶと、必要客数が60人から74人に増え、20席では回転数も約3.7回転必要になります。一方、客単価を200円上げられれば、固定費を変えなくても必要客数は51人まで下がります。どちらが現実的かは、物件候補ごとの集客見込みと、原価率が変わらずに客単価を上げられるメニュー設計かどうかで判断します。
損益分岐点に含まれない費用(返済・税金・生活費)を資金繰りに戻す
損益分岐点は、あくまで営業利益がゼロになる売上の目安です。借入の元金返済、設備更新の積み立て、法人税・所得税、オーナー自身の生活費はこの計算に含まれていません。創業計画書を作成する際は、日本政策金融公庫が提供する様式の資金計画・収支計画欄を使い、損益分岐点とは別に、返済額まで含めた資金繰りを月次で確認してください。損益分岐点を上回る売上を達成していても、返済額を加えた支出が売上を上回れば資金は不足します。
自店で確認するチェックリスト
- 固定費と変動費の分類を、契約書・給与形態に沿って自店の実状で仮決めしたか
- 客単価・席数・回転数に直したときに、現実的な営業時間内で達成できる数字か
- 家賃候補ごとに固定費を入れ替えて、必要客数の違いを比較したか
- 客単価を上げる場合に、原価率や提供量が変わる影響を確認したか
- 損益分岐点とは別に、返済・税金・生活費を含めた資金繰り表を用意したか
次は、ここで仮決めした固定費・客単価の前提を事業計画書の書き方に反映し、開業費用と運転資金の見積もり、資金調達の考え方の順に数字をつなげて確認してください。物件を内見する段階では居抜き物件の内見チェックリストも合わせて使うと、家賃の固定費試算を実際の候補物件に当てはめやすくなります。
黒字目標と資金の最低残高を別々に置く
上の仮定で営業利益を月30万円残したいなら、必要売上は「(固定費120万円+目標利益30万円)÷65%=約230.8万円」です。損益分岐点の約184.6万円を達成しただけでは、この利益目標に届きません。客数は端数を切り上げ、税抜・税込と営業日数を全シナリオでそろえます。
資金繰りでは、減価償却のように今月の現金支出がない費用と、借入元金返済のように費用ではない支出を分けます。個人事業主の生活費引出しと、法人の役員給与も同じ扱いではありません。利益の目標表とは別に、日付ごとの入金・家賃・給与・仕入・税金・返済を並べ、最低残高が不足しないかを確認してください。売上が伸びてもキャッシュレス入金や売掛金の回収が翌月なら、今月の支払い資金は別に用意する必要があります。
出典・確認日
2026年10月14日に各公式情報を確認しました。本文中の金額・人数はすべて説明用の仮定であり、実在の店舗データや統計ではありません。